建築現場においては、労働者の減少や高齢化、長時間労働などさまざまな問題があります。これらの問題に対して効果を発揮するのがメンタルヘルスケアです。
この記事では、従業員のメンタルヘルスケアの重要性について解説しています。
また、建設業労働災害防止協会(建災防)が推奨するメンタルヘルスケアの方法も紹介しています。
建設業など、小規模事業者が失念しがちな「メンタルヘルスケア」対策
労働者の心身の健康に対する社会的関心の高まりを受けて、平成27年12月から、毎年1回すべての労働者に対してストレスチェックを行うことが労働安全衛生法により義務付けられました。
しかし、この制度では労働者数が50人以下の中小規模事業者については義務の対象外となっているため、多くの建設事業所では実施されていません。
労働者が健康で長く活躍できるような働きやすい労働環境を構築するためには、ストレスチェック制度の義務化対象外となっている建設事業所であっても、業種に沿ったメンタルヘルスケア対策を積極的に行っていくことが大切です。
参考:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
なぜ必要?建設業従事者のメンタルヘルスケアが重要視される理由とは
ここからは、メンタルヘルスケアが建築業で働く方々にとってなぜ重要視されるのかについて解説します。
長時間労働や休日の少なさ、待遇面などでストレスを受けやすい建築現場
建設業の働き方改革を進めるため、厚生労働省や日本建設産業職員労働組合協議会のデータをもとに、国土交通省の作成した資料があります。これによると、建設業は全産業平均として年間300時間以上もの長時間労働を行っています。さらに休日数も4週当たり約5日と、他産業では当たり前になりつつある週休二日が確保できていません。
後述する人材不足と併せて、「人が足りない」→「長時間労働や、休日出勤を余儀なくされる」→「人材が集まらない」という負のサイクルに陥ってしまっているのです。また、高所など危険な作業が多いにもかかわらず給与水準が低いと言われる建設業では、経済的な面で将来への不安から、心身に不調をきたすケースも多くみられます。
こうした労働環境の現状により、建築業界で働く従業員はストレスを感じやすい傾向にあるといえるでしょう。
参考:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001314888.pdf
メンタルの不調は、労災リスクを高めるというデータも
平成30年4月には、「建設現場における不安全行動・ヒヤリハット体験に関する実態調査」が行われました。これによれば、高ストレス・不眠状態の労働者は、そうでない状態の労働者と比べて、労働災害に繫がるヒヤリハットの体験リスクが1.2~2倍程度高いという調査結果が出ています。
ヒヤリハット体験の内容について、最も多いのは「転倒しそうになった」が43.8%ですが、中には「墜落しそうになった」11.2%や、「交通事故になりそうだった」7.4%、「挟まれそうになった」6.4%など、重大事故に繫がりかねないものも多く含まれています。
このような労災リスクを下げて安心安全な現場を目指すためには、労働者のメンタルヘルス対策が必要不可欠です。
参考:https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/chousakenkyuhoukoku_hiyarihatto.pdf
メンタルヘルス対策としての労働環境改善が、労働者の減少に歯止めをかける?
建設技能労働者の全体数は年々減少傾向にあり、特に29歳以下の若い世代の入職者が少ないという現状があります。国土交通省の推計による平成30年の年齢階層別の建設技能労働者数をみてみると、およそ半数の50.9%を占めるのが65歳以上で、20代は15-19歳が2.6%、 20-24歳が13.7%、25-29歳が20.2%となっており、労働者の高齢化が顕著であることがわかります。
メンタルヘルス対策を重点的に行うことで労働環境を改善し、より魅力的な職場となることで、離職者の減少や、若年層を含む新たな人材の流入が期待できるでしょう。
参考;https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001314888.pdf
実際どうケアすればいい?建災防が推進するメンタルヘルス対策と、そのやり方
では、実際にメンタルヘルスケアを実施する場合、どのような施策が必要なのでしょうか。ここでは建設業労働災害防止協会(建災防)が推進する方法についてご紹介します。建災防とは建築業を含む事業者によって作られた団体であり、労災防止を図ることを目的として活動しています。
労働環境の改善と合わせて、「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック」を活用しよう
休日や労働時間、給与面などの是正と合わせて、すぐできる対策として、建災防が推進するメンタルヘルスケアの実施があります。
「建災防方式健康KY」とは毎日実施するもので、「睡眠・食欲・体調」の3つの項目に関する質問から各作業員の日々の体調の変化を把握する取り組みです。
「無記名ストレスチェック」とは、現場で働く従業員全員が集まる際に一斉実施するもので、工期内に複数回行います。分析結果をもとに、より働きやすい環境を目指します。
このように、現場の安全施工サイクルへこれらの施策を組み込むことで高い効果が期待できます。
参考:https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/pamphlet8P_1908.pdf
原則毎日実施!2~3分でできる「建災防方式健康KY」
作業を始める前に、監督者から全ての作業者に対して、睡眠・食欲・体調について、問題ないかどうか問いかけ、監督者はその回答や、作業者の態度、表情から健康状態を判断します。もし、心配なことがあれば、結果を所長等へ報告し「睡眠スコア」を実施してください。睡眠スコアとは、1週間の睡眠についての設問で、このスコアが3点以上であれば、事業者へ連絡、もしくは相談機関を紹介しましょう。
工期内に複数回実施が理想!5~10分でできる「無記名ストレスチェック」
無記名ストレスチェックを実施する準備として、実施者を選任し、現場での実施体制を整えましょう。無記名ストレスチェックの当日は安全朝礼において趣旨や方法を説明した後、作業員へ調査票を配布し、回答をしてもらいます。この調査票をもとに建設現場用の集計分析ツールを使用して、環境改善のために集団分析を行います。
まとめ
メンタルヘルスケアを導入することで、人材流出を阻止するだけでなく、新しい人材の流入が期待できます。また、作業員の体調の異変を把握しやすくなり、労災を未然に防ぐことにも繫がるでしょう。
建災防が推奨する建災防方式健康KYと無記名ストレスチェックなどを参考に、ぜひ働きやすい労働環境の構築を目指してください。